じつのところ、低温調理器なんてものは±1.0℃程度の温度が保てれば、どれを使おうが料理の結果は変わりません。
0.5℃単位を調整したところで、それを見極める神の舌は誰も持っていませんし、水温の維持だけなら1200Wも必要ありません。
電気ポットの保温が35Wと言われるのですから、100Wもあれば温度はキープできるはずです。
とどのつまり低温調理器とはタイマー付き水中ヒーターであり、パワーこそ違えど基本的な仕組みは何十年も前からある熱帯魚のそれと変わりません。
そういった事情を踏まえた上で、最初に手にする低温調理器はいったいどれがおすすめか?を考えてみたいと思います。
シンクウキッチンのおすすめ低温調理器は、シロカの電気圧力鍋おうちシェフPRO Mタイプ
シンクウキッチンの結論(おすすめ)はこちら。
せっかくなら、電機メーカーが手掛けた電気圧力鍋の低温調理モードを活用してみてはいかがですか?
シンクウキッチンでメインに使用しているのは、シロカのおうちシェフPRO Mタイプ。
シロカ独自のスマートプレッシャー技術で、性能抜群な電気圧力鍋です。
圧力鍋ならではの気密性と保温性、少量の水とエネルギーで、動作しているのかもわからないほど静かに仕事をしてくれますよ。
- 低温調理器よりも多機能
- 静音、省電力、デザインで優位
- 低温調理器とたいして値段は変わらない
もちろん更に大容量の新型もおすすめですが、当方は100℃未満が専門領域であるため、前モデルのMタイプでも十分すぎるほどの性能なのです。
※フィルム状の袋に脱気密封しての圧力調理は絶対に行わないでください。耐熱温度を超え袋が破損し、蒸気の流れをさえぎる恐れがあるため大変危険です。
低温調理とは?
低温調理とは単なる半なま調理ではなく、たんぱく質が熱変性することで失われる水分・栄養分を最小限にコントロールしようという調理方法です。
低温調理器が普及したことで、これまでホテルやレストランでしか味わえなかった絶妙な火加減の肉・魚介料理が、家庭でもかんたんに楽しめるようになりました。
低温調理=真空調理
低温調理の原点は真空調理です。
調理師や管理栄養士が使用する教科書や調理科学分野の論文では、真空低温調理法と記載される場合もあります。
ざっくりと言えば、フィルム状の袋に入れて脱気密封し、60~95℃の一定温度で湿式加熱する調理方法です。
真空調理のメリットの二本柱は、保存性・携帯性を活かした計画調理と、過加熱を防いだ絶妙なテクスチャです。
ちかごろ低温調理として紹介されるレシピは、後者のメリットを優先した、調理後すぐに食べる料理が多いようです。
一方、前者のメリットを優先しているのが業販向けの真空調理です。
給食用途向けの大量調理や、コンビニでもおなじみのチルド袋物惣菜などの加工食品です。
例えば、病院や福祉施設グループなど複数施設を抱える法人では、セントラルキッチン方式を採用しているところもあります。
各施設では煮ものや付け合わせを温めるだけで提供できたり、キット化されたあえものなど調理の工数を大幅に短縮でき、慢性的な人手不足に悩む給食業界にとって必要不可欠な技術となっています。
低温調理器とは?
業販向けの真空低温調理では、スチームコンベクションや投げ込み式サーキュレーターといった機器が使われます。
これらの機能や仕組みを応用し、より小型に作られたのがスティック・バー状のいわゆる家庭用低温調理器です。
週末バーベキュー文化のアメリカでAnova(アノーヴァ) Precision Cookerがヒットし、またたく間にこれを模した低温調理器が世界中にあふれました。
いち早く日本仕様として認知されたのがBONIQ(ボニーク)であり、アイリスオーヤマといった大きなメーカーも参入するほどのカテゴリーへと成長しました。
低温調理のキーポイントとなる温度
低温調理にはキーポイントなる温度があります。
| 温度 | 肉・野菜のおもな熱による変性 |
|---|---|
| 45℃ | 脂が融解し、液状化しやすくなる |
| 50℃ | 筋繊維たんぱく質ミオシンが変性を開始 |
| 50℃ | ペクチンメチルエステラーゼにより野菜の硬化が開始 |
| 60℃ | 筋漿たんぱく質ミオグロビンが変性を開始 |
| 65℃ | 肉基質たんぱく質のコラーゲンが第一段階変性により収縮 |
| 66℃ | 筋繊維たんぱく質アクチンが変性を開始 |
| 70℃ | アクチンの変性で保水力が限界をむかえ、脱水に転じる |
| 75℃ | アクチンの大部分が変性を完了し脱水がゆるやかになる |
| 80℃ | ペクチンメチルエステラーゼが破壊され野菜が軟化に転じる |
| 90℃ | 細胞壁のペクチンが溶出し、根菜が軟化を開始 |
| 95℃ | ペクチンの溶出により、かたい葉茎菜が軟化 |
おおむね5℃きざみで変性が起こっていることがわかります。
そして、シロカのおうちシェフPRO Mタイプの100℃以下のモードの温度幅は5.0℃間隔です。
スティックタイプの低温調理器の中には0.5℃単位の細やかな設定が可能であることをアピールしているものもあります。
しかし、キーポイントとなる温度は5.0℃刻みでも十分に網羅できるため、その機能はかなりニッチな需要のなためにあると考えられます。
なぜ、低温調理は湯せんするのか?
シンクウキッチンを運営する私の本業は、真空調理を専門とする調理師です。
長年にわたり真空調理・低温調理に携わってきましたが、その本質は全方位からの伝導熱による恒温加熱だと考えています。
長時間一定の温度を保つために※比熱が大きい水中が最適であり、対流熱を伝導熱として伝えるためにフィルム状の袋で脱気密封されています。
※比熱=温度変化のしにくさの度合い
業販向けでは、より味のしみ込みがよく、より脱気密封の精度の高い、チャンバー式の真空包装機が使用されています。
液体の脱気密封が可能な家庭向け真空パック機が登場したことで、家庭でも本格的な真空調理が楽しめるようになりました。
低温調理器のタイプ
低温調理器をタイプで分けると3つのタイプに分類されます。
それぞれのかんたんな説明と、メリット・デメリットをあげておきます。
スティックタイプ
最もポピュラーなタイプです。
らせん状の①シーズヒーター、②水温計、③水位計、④撹拌用スクリュー、⑤タッチパネル、⑥サーモスタット、⑦基盤で構成されています。
ワット数が高いほど水温がはやく設定温度に到達し、食材投入後のリカバリーもスムーズです。
接続方法を大別するとクリップ式とねじ式があり、パスタ鍋のような深型の鍋やコンテナが別途です。
スリム化される傾向ですが、それでも賞状の筒~ボーリングのピンぐらいの存在感があります。
BONIQは国内唯一の低温調理専門ブランドです。
お客様の声をもとにしたアフターフォローやモデルチェンジ、料理コンテストなどの取り組み、レシピサイトの運営など、あらゆるところで低温調理への愛があふれています。
- ラインナップが豊富
- 必要なときだけ使える
- 音や振動あり
- 水が3~6リットルは必要
- 深型のコンテナや鍋が必要
- ふたや保温性の高い容器がなければ92℃以上はあがりづらい
電気鍋タイプ
スロークッカー・電気圧力鍋・炊飯器などが主機能ですが、温度を任意にコントロールできる機能を搭載するタイプです。
プローブと呼ばれるワイヤーでつながれた針状の芯温計を搭載したものや、炒め調理など多機能なものなど、その種類も増えつつあります。
- 気密性・保温性・静音性に優れる
- スティック状よりも省電力
- 低温調理のほかにも使えて多機能
- ミドルクラスの低温調理器と価格が変わらない
- 基本的に常設でスペースがいる
- きざみ1℃以下で設定できる機種はない
- 選べるサイズが少ない
乾熱タイプ
家電メーカーTOSTEMから発売されている、低温調理をコンセプトにした水を使わない調理機器です。
乾熱でありながらも、フィルムを介した熱伝導にかわりはないので低温調理は可能です。
トースタータイプの低温コンベクションオーブンTSF601と、ボックスタイプの芯温スマートクッカーTLC70A-Kがあります。
コココロキッチンの大西さんが推されている面白いコンセプトの調理家電です。
- 水なしでも低温調理が可能
- TLC70A-Kはプローブ型の芯温センサーで中心温度で調理が可能
- 水よりも比熱が小さいので時間がかかる
- TSF601はフリーザーバッグ使用時70℃以下に限定される
- TLC70A-Kは小型であり単一の食材向き
低温調理の危険性
低温調理の危険性は、機械の性能よりも扱う側の知識の差にあります。
しかも、長く加熱すれば低温でも大丈夫という単純な話ではありません。
食中毒リスクとは
加熱不足だから食中毒になるのではありません。
食品が食中毒原因微生物に汚染され、食品中に毒素を産生してしまうか(毒素型食中毒)、体内に侵入した微生物が胃酸に耐え、腸管に侵入し免疫システムを突破する(感染型食中毒)から食中毒が発生します。
何にどれだけ汚染されているかは肉眼では見えませんし、あくまでも可能性でしかありません。
さらには、どんなに加熱したところで、盛りつけた後に汚染されることも多々あります。
だからこそ、けっしてゼロにはできない、リスクの高低で考える必要があります。
危険温度帯
一般的に10~60℃は食中毒原因微生物の増殖の可能性のある危険温度帯と呼ばれます。
中には、低温でも増殖できる菌もいるため、5~10℃も警戒しておく温度帯です。
国際的に見ても10~60℃は危険温度帯とされ、アメリカFDAでは40~140°F(4.4~60℃)です。
腐敗と食中毒のちがい
腐敗とは微生物の作用で有機物が分解し、食べられなくなった状態です。
人間にとって有用な変質の場合は発酵と呼ばれます。
ぬめりやねばり、においなどの変化を伴います。
一方、食中毒原因は基本的に無味・無臭です。
細菌と毒素のちがい
例えば、傷や化膿創で見られる黄色ブドウ球菌は60~65℃/10~30分の加熱で死滅しますが、分裂する際に産生する毒素エンテロトキシンは100℃/20分でも無毒化できません。
そのため、長時間にわたり発育至適温度20~50℃に滞在する低温調理は、多大な危険を伴います。
低温殺菌の誤解
平成27年6月2日付で厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課長より発行された、豚の食肉の基準に関するQ&Aについてという文書があります。
低温調理の安全性を伝えるため、多くの低温調理を紹介するレシピやサイトで引用されているのが、この文書中の63℃で30分間以上加熱するかこれと同等の殺菌効果を有する方法という部分です。
63℃以下でも相応の時間加熱すれば殺菌できると解釈しているようですが、文章中にそのような記載はありません。
また、食品製造業者向けの食肉製品の手引書中、特定食肉製品の項で63℃未満での加熱要件の記載がありますが、到底一般家庭で満たせる条件ではありません。
つまり、63℃以下でも安全とする根拠にはなり得ないのです。
設定温度直前の上昇鈍化
低温調理中の水温と食材の温度の関係です。
2つの隔たる物質間で温度が同じになる状態を熱平衡の状態といいますが、あと数℃の状態が全体の加熱時間半分を占める場合もあります。
設定温度に近づくほど、熱エネルギーの移動は鈍化するのです。
具体的には設定温度70℃では鶏もも肉の温度は以下のように上昇します。
鶏もも肉の厚みは1~2cm
中心温度計はプローブ式の熱電対Tタイプ
真空調理用のムーステープを使用し、5分間隔で計測したものです。
| 経過時間 | 中心温度 |
|---|---|
| 0分 | 15.0℃ |
| 5分 | 37.8℃ |
| 10分 | 52.8℃ |
| 15分 | 60.5℃ |
| 20分 | 64.8℃ |
| 25分 | 68.0℃ |
| 30分 | 68.6℃ |
| 35分 | 69.1℃ |
| 40分 | 69.6℃ |
| 45分 | 69.9℃ |
| 50分 | 70.0℃ |
この結果からわかることは、時間の半分は残り5%(3.5℃)程度のために加熱されているということです。
つまり、60℃に設定した場合55℃辺りから上昇しづらいということであり、その間ずっと危険温度域にあるということです。
低温域での動き
先程の設定温度付近での熱エネルギーの移動の鈍化は、低温域であるほど顕著です。
同じ厚みの食材でも、設定温度が低くなるほど熱平衡の状態までの時間は長期化します。
つまり、同じ温度差の熱エネルギーの移動であっても、冷却時はさらに時間がかかるということです。
設定温度と中心温度
低温殺菌について語られる場合、基本的に温度と時間は中心温度に到達してからのものです。
つまり、いつ中心温度に到達したかがわからない環境では、憶測でしか安全性は判断できません。
中心温度が計測できないのであれば、危険温度帯の境界付近での調理はとてつもなく危険な行為です。
水温のうねりと不安定の原因
前述のとおり、水は空気よりもあたたまりにくく冷めにくい性質を持ちます。
海の中と同じように、熱源から遠ざかるほど冷たくなり、温度差によるうねりが生じます。
低温調理器の水温を別の温度計で計測し、「温度がブレる」という低評価しているレビューもありますが、逆にそれは正しく計測されているということです。
電子体温計がピタリと温度を止めているのは、上昇の幅からの予測値をホールド表示しているに過ぎません。
低温調理器の撹拌用スクリューはとても小さく、コンテナや深鍋の水量が食材に対して十分ではない場合、水温が安定しない原因となります。
まとめ:多機能な電気圧力鍋で調理の幅を広げてみては
設置スペースが確保でき、日常的に真空調理・低温調理するなら、電気圧力鍋に搭載されている低温調理モードを使用するほうがスマートです。
なぜなら、毎回コンテナに大量の水を用意する必要もなく、ドゥ~~ンという耳障りな振動や音にも悩まされず、乾燥しひび割れた指先で反応が鈍いタッチパネルにイライラすることもないからです。
昨今の調理家電の進化は目覚ましく、あらゆる加熱機器に低温調理モードが搭載されはじめました。
これらの加熱機器が、多機能・省電力・静音・それほど変わらない価格ということであれば、スティックタイプをあえて選ぶ必要性は薄らいでくるのかもしれません。



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