家庭向けでも業販向けでも、低温調理・真空調理は、基本的に7つの工程で成り立っています。
そして、急速冷却と保存をはさまないのであれば、一次加熱で調理は完了しています。
| 工程 | おもな作業の内容 |
| 1.下処理 | 野菜の洗浄・皮むき・下ゆで(ブランチング)・脱水・肉の焼き色つけなど |
| 2.袋詰め | 下処理した食材を真空袋に入れる |
| 3.調味液 | 調味液の配合、充填など |
| 4.脱気密封 | ノズル式・チャンバー式真空パック機で脱気密封 |
| 5.一次加熱 | 湿熱による95℃以下での恒温加熱 |
| 6.冷却 | 氷水で急速冷却 |
| 7.二次加熱 | 95℃以下の一定温度で加熱 |
下処理




低温調理・真空調理の下処理は通常のそれよりも広範囲です。
例えば、焼き色をつけるといった作業も下処理に含まれます。
かんたんに言えば、袋に入れるまでのすべての作業は下処理なのです。
低温調理・真空調理の下処理の目的は、アクやえぐ味、余分な脂、くさみやぬめりなどのいらないものを取り除き、うま味や適度な脂など、いるものを残すことにあります。
いらないものの中には、下ゆで後の食材切片のあいだの水分、好ましくない※テクスチャ-、野菜内部の空気なども含まれます。
※食感や色など、食品の物理的な特性
下処理次第で全体的な仕上がりが左右されるため、最初にして最も重要な工程と言っても過言ではありません。
袋詰め




下処理した食材をナイロンポリ製の真空袋に入れます。
調理直後に食べることが前提の低温調理であれば、食品対応のポリ袋やフリーザーバッグで構いません。
この場合の脱気密封は、水圧で空気を抜いてジッパーを閉じたり、クリップで止めたりといった方法です。
しかし、保存を前提とする場合、ノズル式またはチャンバー式の真空パック機による脱気密封が必要です。
ノズル式、およびチャンバー式真空パック機で使用する真空袋は、エンボス加工されていないナイロンポリ製です。
プラマーク横の回収識別表示はPE(ポリエチレン)・PA(ポリアミド)と記載してあるはずです。
※ポリアミドとはナイロンのことで、材質表記はNY。
溶着しやすいが酸素を透過するポリエチレンと、溶着しにくいが酸素を遮断するナイロンの多層構造で、双方のデメリットをおぎなう構造になっています。
ナイロンポリ製の真空袋には、底面のみがシールされたコスト優先のチューブタイプと、さらに両サイドをシールした見栄えの良い3方シールタイプがよく使用されます。
ブロック状の肉や大ぶりな野菜、見栄えは気にしない仕込み用などはしなやかなチューブタイプ。
印象が大事な製品用、ピンホールの懸念があるかたい食材には、透過性に優れ刺突にも強い3方シールタイプがよく使われています。
家庭で楽しむ低温調理・真空調理であれば、一般的な性能のチューブタイプで問題ありません。
- 識別表示
- PE・PA 3~5層の多層構造
- 厚み
- 0.06~0.07mm(60~70μ)
- 耐熱性能
- ボイル100℃/30分、冷凍-30℃
調味液




一般的なレシピではあまり使わない言い回しですが、しょうゆや砂糖などの調味料、水や顆粒だしなどを合わせた液体を調味液と呼びます。
低温調理・真空調理は煮詰まることがないため、食材そのものが持つ水分も加味しておかなくてはなりません。
そのため、通常よりも味付けが濃くなります。
例えば、通常であれば濃口1:だし8の割合とするところが、濃口1:だし4になるイメージです。
液体量が多いほど温まりにくく冷めにくいという法則性があるため、投入量は盛りつけに必要な量からの逆算で求めます。
調味液のポイントは以下のとおりです。
おもさ・・・とかさ・・の違い
調味料にはそれぞれ比重があり、すべての調味料が水のように1ml=1gではありません。
例えば、みりんは1ml≒1.2gであり、ふんわりと入れた砂糖1カップ(200ml)はおよそ120gです。
一般的なレシピでは個体のおもさの単位(g)とかさの単位(ccまたはml)が混在し、さらには大さじ・小さじにカップなど、いちいち換算の必要な単位も入り乱れています。
料理初心者は混乱して当然で、これでは味も容易に定まるものではありません。
シンプルに考えれば、個体調味料はおもさ・液体調味料はかさで計量すれば良いものですが、便利なツールが手元に無かった時代の名残りが今も脈々と続いています。
低温調理の調味液の投入量は、食材のおもさに対する割合で表されるため、何袋でも、何人前でも同じ味付けにすることができます。
したがって、比重の違う調味液をかさの単位で投入していると、調味液の過不足が生じる場合があるのです。
アルコール分を飛ばす
みりん・酒などのアルコール分(エタノール)は、思わぬ失敗につながります。
アルコール分(エタノール)はおよそ79℃前後から気化し、その体積は約490倍にもなります。
例えば、一般的なアルコール分14%の料理酒を大さじ1杯、煮切らずに脱気密封して加熱すると、ソフトボール1個分ほどの気泡になる恐れがあります。
膨張によるシール部の破損だけでなく、食材への熱伝達が阻害され、加熱不足の原因となります。
冷まして使う
熱い調味液を投入するということは、せっかく下処理で冷ました食材を再び危険温度帯に近づけることに他なりません。
そのため、砂糖の溶かし込みやアルコールの煮切りで加熱した調味液は、10℃以下に冷まして投入するのが原則です。
また、糖度の高い調味液は注意が必要です。
糖度の高い液体は、冷たく濃いほど水よりも重くなってしまいます。
アイスコーヒーのガムシロップが底に沈殿するのも比重の違いによるものです。
例えば、砂糖が70%にも達する煮豆などの調味液を冷ますと、同じ温度・量の水と比べておよそ1.3倍もおもくなります。
前述のとおり、調味液は食材のおもさに対して投入されるため、かさの単位で投入すると必要量も足りなくなってしまいます。
濃縮つゆを積極的に使う
質量(おもさ)と容量(かさ)の換算やアルコールの煮切りなど、はっきり言って調味液づくりは面倒です。
1~2パックの低温調理・真空調理にそこまでしたくないというのが本音です。
そこで、ぜひ活用していただきたいのが、市販の濃縮つゆです。
基本的な家庭料理の煮ものは、しょうゆ(塩分)+糖類(糖分)+発酵調味料(みりん・酒など)+うま味・だし成分+水という構成です。
ここから水分をぎゅっと絞ったものが濃縮つゆ、いわゆるめんつゆのイメージです。
豊富な種類のしょうゆの配合や、宗田かつお節やさば節など通常の家庭ではお目にかかれない豊富なだし食材が使われ、味の奥行きは敵うものではありません。
しかも、アルコール分もないので冷水で希釈するだけですぐに投入でき、使用量も最小限です。
まさに、低温調理にうってつけの調味液と言えます。
せっかくコスパよく使えるのですから、各社のこだわりの一品を探求してみるのも楽しいですよ。
脱気密封
続いて、脱気密封です。
シンクウキッチンで紹介している低温調理・真空調理では、㈱ワイドシステムのチャンバー式真空パック機、真空パックんシェフ2をメインに使用しています。
さらに使いやすく縦方向にサイズアップした+plus(プラス)も登場!
騒音や価格は二の次で業務用レベルのクオリティを求めるのであれば、オイルポンプのチャンバー式、Wevac C806が候補に入ってくるでしょう。
真空パック機を上手に使うポイントは下記のとおりです。
- 厚みを均一にする
- シール部分を汚さない
- 袋に詰め込みすぎない
- 冷凍食材は避ける
- 食材内の空気はあらかじめ抜いておく
低温調理器で一次加熱
いよいよ一次加熱です。
水温の設定と気泡の発生要因
水が加熱されていく状態を言葉であらわす実験では、次のように表現されています。
| 温度 | 状態 |
| 99℃~ | ぐらぐらと沸騰している |
| 98℃ | 沸騰している |
| 96~97℃ | 沸騰しはじめ |
| 95℃ | 沸騰直前 |
水は低温でも蒸発していますが、100℃に近づくほどより顕著に気化します。
完全に水蒸気になると、水の体積はおよそ1700倍にまで膨らみます。
水の気化はたしかにエアポケット発生の要因のひとつなのですが、補足する点もあります。
低温調理器の設定上限温度は90℃または95℃が一般的です。
しかしながら、92℃以上にするためには、よほど気密性の高いふたや保温性の高いコンテナが必要です。
さらに、袋素材や食材の熱伝導率・熱伝達率が関係するため、設定温度に近づくほど温度の上昇は鈍化します。
そのため、最高温度に設定しても、中心温度は90℃前後までしか到達していないというケースが頻発し、水が気化して破裂するほどの膨張はまず起こらないと考えられます。
また、気化した水は冷えれば液体に戻るはずであり、そうでない場合はもともと食材が含んでいた気体ということになります。
食材や水が内包する気体が加熱により外に移動し、シャルルの法則に従って1.3~1.5倍程度に膨張したものと考えるのが妥当でしょう。
内部や表面で気体が凝縮される冷凍食材では、さらに顕著に加熱後に気泡が発生するのもこのためです。
機器の設定と実測の中心温度
ローストビーフなど60℃付近の低温調理はとくに注意が必要です。
下手をすると菌達にとって心地よい環境を与えているだけかもしれません。
管理しなくてはならない温度と時間は、低温調理器の設定値ではなく、食材の中心温度と到達してからの経過時間です。
知識不足の低温調理はいつか事故を起こします。
自分だけならまだしも大切な人にふるまう料理であるならば、関連する衛生知識の修得は欠かせません。
60℃付近の肉料理については、厚生労働省が食肉製品の製造業者に向けて提示している製品基準を入り口とするのがいいのではと思います。
その中で、重要な部分は「中心温度75℃で1分間以上、63℃で30分以上、またはこれと同等以上の殺菌効果を有する方法」という箇所です。
この同等以上の殺菌効果を導くためには、低温殺菌に関わる指標、D値・Z値を知る必要があります。
D値:ある加熱温度において生菌数を1/10にする時間(90%致死時間) Z値:加熱時間D値を1/10にするために必要な温度
これをもとにすると、あたかも58℃でも低温殺菌は可能だと考えてしまいがちです。
しかし、実際には素材・食材ごとの熱伝導率や熱平衡などが関係し、機器の設定温度に到達するまでに様々なハードルがあります。
また、脱気密封したままでの中心温度の計測など家庭環境では困難であるため、ほとんどが加熱不足であることには気づけません。
低温調理をはじめると、どうしても「これと同等以上の~」に目が向いてしまいます。
しかし、10~60℃が危険温度帯であること、素材・食材ごとの熱伝導率や比熱が違うこと、熱平衡直前には温度上昇が鈍化することを考慮すると、63℃で30分以上が妥当なラインであると理解できます。
わざわざ明記されるには意味があり、そしてこれこそ家庭でできるレベルの低温調理の最低ラインではないかと思います。
昨今、見えない敵の恐怖は思い知っているはずです。
不用意に深淵はのぞかず、遠目に見る程度にしておきましょう。
殺菌と美味は別のはなし
D値、Z値はあくまでも食肉の菌数増減に関係するもの。
おいしいかどうかはまた別のはなしです。
例えば、根菜類を60℃で何時間加熱したところでやわらかくはなりません。
むしろ、酵素ペクチンエステラーゼのはたらきによりかたくなります。
野菜は90℃付近で細胞壁を構成するペクチンが剥がれはじめ(β脱離)、その一部が溶出します。
これにより、細胞壁のならびがくずれ、食感がやわらかくなるのです。
大きな建造物が倒壊するイメージです。
根菜の煮ものの完成とは、軟化した食材に食材そのものの水分と調味液が混ざりあい、時間経過とともに浸潤した状態といえます。
つまり、低温調理における一次加熱の目的とは、リスクを許容できる菌数まで減らし、食材の色や食感を整え、内部にまで味を入れることなのです。
低温調理器の信頼度は大丈夫?
低温調理器の構造はいたってシンプルです。
空焚き防止用の水位センサー、らせん状のシーズヒーターとサーミスタ温度センサー、撹拌用のスクリュー、それらを結びつける基盤とタッチパネルという6パーツの既存技術の組み合わせです。
Anovaを模したほとんどの低温調理器は中国で製造されていますが、Boniqのように販売は日本企業が手掛けているものもあります。
ここ2~3年で中国メーカーの安価な製品の数点を試していますが、精度もよく1000W以上のハイパワーも珍しくありません。
価格も7,000円〜10,000円程度から購入できます。
注意点は、たとえ99℃まで設定できる機種であっても、92℃以上を安定させるのは困難だということです。
おそらく、リミッターが設けられているのでしょう。
低温調理器で92℃以上に水温をあげるには、機種の出力だけでなくコンテナの保温性や気密性も影響します。
シンプルな設計とはいえ、安全性の根拠のため正確な温度計測と表示はおろそかにできません。
別途、中心温度計を用意して水温計測するなど、エラーチェックできる環境は整えておきたいものです。
一次加熱の目的は調理と殺菌
真空調理では、一次加熱の段階で調理が完了し、食中毒原因微生物も許容範囲まで減少したと考えます。
そのため、当日すぐに食べる場合は、ここで完成です。
加熱終了後、2時間以内に食べ終えてください。
低温調理として紹介される多くのレシピは、作ってすぐに食べることを前提としているため、必ずしも真空袋を使った脱気密封は必要ありません。
フリーザーバッグやポリ袋に入れて、水圧を利用して脱気する方法で十分でしょう。
しかし、保存することが目的であれば、二次汚染を防止するための脱気密封の完成度と、変質を抑えるための急速冷却は欠かせません。
冷却
次は冷却の工程です。
氷水に漬けるのが最もシンプルで効率のいい冷却方法です。
一次加熱終了後、30分以内に冷却を開始し、90分以内で3℃以下に冷却します。
しかし、氷水の温度を調べるのは案外むずかしく、一般的なサーミスタ方式の中心温度計での計測では、1.0~6.0℃まで定まることはないでしょう。
10~60℃は一般的な食中毒菌が増殖する可能があり、各国の保健機関で危険温度帯として採用される温度域です。
特に20~50℃は、多くの食中毒菌にとって発育至適温度帯(増殖に最適な温度帯)です。
細菌は倍々に分裂します。
仮に食品が発育至適温度帯にある時、分裂速度20分の菌が1個だけ付着したとしても、3時間後には512個に、さらに6時間後にはなんと262,144個にまで増殖します。
例えば、戸棚に入れておいた昨日のおにぎりには、天文学的な菌数が存在しています。
もしも、その菌が食中毒原因菌であったら・・・
腸管出血性大腸菌O-157はわずか2~9個の菌数でも発症に至ることを考えれば、二次汚染からの常温放置がどれほど危険なことか想像できると思います。
ただ冷やせばいいのではなく、食品において滅菌・ゼロリスクはありえないという考えのもと、菌が増える前に急速に冷やさなければ意味がないのです。
低温調理がどのぐらい日持ちするかはわかりません。
使った食材の鮮度、下処理の良し悪し、脱気密封の精度、一次加熱の状態、保存中の温度など、あまりに多くの条件が調理する人や環境で異なるため答えようがないのです。
あえて言えば、二次汚染の可能性はぐんと下がるので、お宅で同じ料理を作りおきするよりも少しだけ日持ちする程度でしょう。
二次加熱(最終加熱)について
最後の工程です。
冷却保存の後、食べる直前の加熱が二次加熱(最終加熱)です。
前述のとおり、食品においてゼロリスクはありえません。
調理はすでに完了しているため、目的は予備的な殺菌とあたためです。
黄色ブドウ球菌の毒素エンテロトキシンやボツリヌス毒素を懸念すれば、失活させるために最低でも中心温度80℃/30分の加熱は必要です。
ノロウイルスによる汚染が懸念されるような食材や状況であれば、中心温度85℃以上/90秒の加熱が必要です。
また、厚みや液体の粘度・量などでも熱の伝わり方は大きく変わってきます。
1時間以内に一次加熱と同じ設定温度に到達させることを目安に加熱してください。
電子レンジでの二次加熱は加熱ムラも多く、センサー方式の違いで温度と時間はずいぶん変わることを理解しておく必要があります。
いずれにせよ、加熱後の温度計測は必須です。
加熱終了後はお皿に盛りつけて完成です。
二次加熱終了後、2時間以内に食べきるのが原則です。
安全性の面から、たとえ未開封であっても再保存はできません。
だからこその最終加熱なのです。
【まとめ】各工程のポイント
各工程のポイントをまとめます。
- 目的は必要なものを残し、余分なものを取り除くこと
- 食材は鮮度のいいものを使う
- 脂の溶解温度、たんぱく質の変性温度に注意
- 各レシピに記載
- エンボス加工の真空袋は使えない(チャンバー式は使用可能)
- シール部分は汚さない
- 袋容積の半量程度が目安
- アルコール分を飛ばす
- 10℃以下に冷まして使う
- 計量するときは単位に注意
- 脱気溝式は液体の真空がむずかしい
- シール部分を汚さない
- 厚みを均一にならす
- 95℃以下
- 最低限、中心温度75℃で1分間以上、またはこれと同等以上まで加熱する(二枚貝などノロウイルス汚染の恐れのある食品の場合は85~90℃で90秒間以上の加熱が必要)
- 加熱終了後30分以内に冷却開始
- 中心温度を30分以内に20℃以下、90分以内に3℃以下に冷却
- 10~60℃は食中毒危険温度帯、20~50℃は発育至適温度帯
- 保管中は3℃以下を維持する
- 1時間以内に中心温度を一次加熱時と同等にする
- 開封後は2時間以内に喫食
- 再冷却、再加熱は行わない


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