たしかに、真空パック機を使えば保存期間を伸ばせます。
しかし、やみくもに使用したところで大した効果は期待できません。
それどころか、まちがった認識で家族やパートナーを危険な目に合わせてしまう可能性すらあります。
取り返しの付かない大事をやらかしてしまう前に、真空パック機にまつわる4つの盲点をおさえておきましょう。
知らないと大事(おおごと)をしてしまう4つの盲点
- 真空パックしたただけでは食中毒は防げない
- 業務用と家庭向けの性能差は歴然
- 真空パックしてからの冷凍は鮮度一発アウト
- 真空パックに向いていない食材
真空パックしただけでは食中毒は防げない
まず、食材の鮮度と食中毒は無関係です。
因果応報、汚染されているから中毒を起こします。
汚染されていなければ、少しぐらい鮮度が悪くても中毒症状までは起こしません。
まずいですけど。
つまり、食中毒と腐敗・発酵はそれぞれ別の現象で、同時に起こることもあればそうでない場合もあるということです。
食中毒原因細菌による汚染は基本的に無味無臭。
腐敗・発酵のようなわかりやすい変化は見られません。
さらに厄介なことに、カンピロバクターや黄色ブドウ球菌などをはじめ、多くの食中毒菌は通性嫌気性または嫌気性であり、増殖に必ずしも酸素を必要としません。
中でも最警戒すべきは、酸素のない環境でのみ増殖し、最凶レベルの毒素を産生するボツリヌス菌でしょう。
とどのつまり、真空パックしただけでは食中毒は防げないのです。
業務用と家庭向けの性能の差は歴然
業務用チャンバー式→家庭用チャンバー式→上位の脱気溝式→ノズル式→下位の脱気溝式→逆止弁式のハンディタイプ、の順で真空度は低くなります。
関連記事:家庭向け真空パック機の選び方|失敗しないためのポイントと用途別おすすめ3機種
| カテゴリー | 代表機種・ブランド | 到達真空度(ゲージ圧) | 真空度 | 目安価格 | 気圧イメージ |
|---|---|---|---|---|---|
| 業務用チャンバー式 | TOSPACK | -101.1kPa | 99.8% | ¥500,000~ | 宇宙空間 |
| 家庭用チャンバー式 | 真空パックんシェフ2 | -94.9kPa | 93.7% | ¥55,800 | 上空20,000~25,000m |
| 上位の脱気溝式 | 真空パックん PREMIUM | -89.9kPa | 88.7% | ¥15,980 | 上空18,000m付近 |
| ノズル式 | フードシールドJP290スタンダード版 | -80.0kPa | 78.9% | ¥16,980 | 上空15,000m付近 |
| 安価な脱気溝式 | 多数 | -50.0kPa | 49.3% | ¥7,000前後 | 上空5,000m付近 |
参考:TOSEIのトスパックが選ばれる理由|株式会社TOSEI(トーセイ)
ちなみに、乳児用の電池式の鼻水吸引器が−60kPaです。
また、チャンバー式以外の家庭向け真空パック機は、いずれの方式も袋の中の空気を直接吸引する方式です。
袋の中の空気量は限られているため、吸い出せなくなればそれまで。
大気圧以下の真空(減圧)にはなり得ません。
じつは、真空になっているのは、吸気口とのあいだのわずかな溝や集水カップの中といった袋の外部だけなのです。
真空(減圧)保存するためには、キャニスターやコンテナなどを外部に接続する必要があります。
したがって、細かい表現をするならば「専用容器を外付けすれば真空(減圧)保存もできるパック機」、略して真空パック機というわけです。
また、真空度を正確に調べるには精密な機器類と特殊な環境が必要で、その計測方法もメーカーごとに差異があります。
海外メーカーのOEM販売が中心の家庭用真空パック機では、なおのこと表記に統一的な正確性があるわけではないのです。
ただしどの方式でも、その目的は脱気密封です。
その手段のひとつとして真空チャンバー式であったり、脱気溝式やノズル式があるという関係です。
どんな方式で脱気密封しようとも、精度の差こそあれど「空気のとても少ないパック」という結果は変わらないのです。
鮮度一発アウトのまちがった冷凍真空パック
『真空パックしてから冷凍すれば、冷凍焼け(昇華)せず鮮度も維持できるらしい』
これ、間違いではありませんが、手順をあやまると逆効果になります。
なぜなら、家庭用のフリーザーの特徴は−18℃前後の緩慢冷凍だからです。
これは、ホームフリージングとも呼ばれ、すでに冷凍された食品を保冷する設計です。
業務用冷凍庫のように−20~-30℃の設定でもなければ、高い熱伝導性や冷気を循環させる仕組みもありません。
そもそも、生鮮食材を冷凍する用途には作られていないのです。
精肉・鮮魚のドリップの流出量に大きく関係するのが、氷の結晶の大きさです。
この氷の結晶が作られるのが冷凍時、−1℃から−5℃の最大氷結晶生成帯です。
この温度帯への滞在が長いほど氷結晶は大きくなり、細胞膜などへのダメージも大きくなります。
傷つけられた細胞膜は組織液をとどめておくことができず、解凍時にはドリップの流出量も多くなり、鮮度も風味もひときわ劣化してしまうのです。
とはいえ、家電の性能も向上しています。
業務用環境には劣りますが、急速冷凍機能を備えた家庭用の冷凍冷蔵庫も標準的になってきました。
しかし、使いこなせている一般家庭はそう多くはないと思います。
金属トレーのある急速冷凍室に冷凍食品やアイスクリームを詰め込んでいませんか?
切り身の魚をパックごと放り込んだり、のりやお餅など水分流出の少ない食品で埋めていませんか?
これでは、せっかくの機能も宝の持ち腐れと言わざるをえません。
真空パックに向いていないものがある
次のものは真空パック、および脱気密封に向いていません。
- エチレンガスを産生する青果
- 呼吸の活発な野菜
- まだ温かいカレーなど、濃度や粘性の高い食品
- 組織のやわらかい食材
- 刺突によるピンホールの可能性の高い食品
- かたく割れやすい食品
特に、あたたかい食品の脱気密封には注意が必要です。
あたたかく粘性が高いということは、たくさんの空気を内包しています。
脱気溝式やノズル式では食品中に含まれる空気をほとんど抜くことができないため、その状態はほぼ作りおきと変わりません。
また、温度差による結露の発生など、真空ポンプにも大きな負荷がかかり故障の原因にもなりかねません。
ホットパック専用モードを搭載する業務用機以外では、基本的にできないものだと考えたほうが無難です。
ならばどうする?真空パック機の本領を発揮させる正しい知識
なら、どうすればいい?
真空パック機と冷凍冷蔵庫を使いこなし、食材をより良い状態で保存する知識とは。
危険温度帯の迅速な回避、リスクを正しく把握する
細菌の増殖には、栄養×水分(自由水)×温度が必要です。
そして、増殖を抑えて食中毒を予防するためには、「つけない、増やさない、やっつける」のが原則です。
「つけない」のポイント
家庭のキッチン環境は、食品製造工場と比較にならないほどリスキーです。
- ペットが自由に往来できる
- リビングと仕切りのないほぼ同一空間
- ほぼ普段着の調理者の着衣
- 手袋やアルコール消毒などの衛生用品の不備
- 人にも菌にも快適な室温
- 家電の性能レベルでさらに省エネモード
- そもそも汚染・非汚染の区域分けもない
万が一の場合に一次汚染を疑いたい気持ちもわかりますが、現実的には二次汚染の可能性のほうが圧倒的に高いでしょう。
ひとまずは、手袋の着用や、トングの使用など直接食材に触れる回数を減らす対策からでもはじめましょう。
「増やさない」ポイント
「増やさない」ためには、食中毒原因細菌が増殖可能な10〜60℃の危険温度帯への滞在時間をどれだけ減らせるかがキーポイントです。
とりわけ、40℃前後の発育至適温度は最警戒しなくてはならない温度です。
真空パックされた食品・食材は、熱の移動が著しく遅くなることを知っておかなくてはなりません。
熱は必ず高い側から低い側へと移動し、濃粘の度合いが強いほどさらに熱の移動は遅れる特性があります。
また、熱は必ず高い側から低い側へと移動します。
真空パックの場合、食材からフィルムへ伝達された熱がフィルムを熱伝導し、外部へと熱伝達されます。
真空パックされた食品は、対流熱ほどの分子の移動がないため熱エネルギーの移動も遅く、濃粘の度合が強い食品であればさらに熱の移動はゆっくりと進みます。
万が一にも汚染された状態で真空パックしてしまった場合、このタイムラグは非常に不利にはたらき、大事に発展してしまいかねません。
「やっつける」家庭でできる現実的な低温殺菌
真空パックするだけでは、おどろくほど鮮度が長持ちすることはありません。
食中毒菌に限らず、発酵や腐敗をになう微生物や酵素による変敗を防ぐためには、それらの活動を止めなくてはなりません。
スーパーで見かける真空パック食品は、例外なくpH調整や、低温殺菌・高温高圧殺菌などにより食中毒原因細菌や微生物、および酵素などの働きを止めてあるのです。
そして、これらの真空パックにまつわる特性を理解し、応用したものが真空調理です。
シンクウキッチンでは、給食施設向けの真空調理をベースにし、家庭向けの調理機器でできる真空調理・低温調理レシピを紹介しています。
真空パックにおける賞味期限・消費期限の考え方を知っておく
多くの質問をいただくのが、「真空パックすると何日保つのか?」という保存期間にまつわるものです。
しかし、残念ながら答えようがありません。
なぜなら、お手元の食材の鮮度の良し悪しや汚染の有無、加熱殺菌の度合いや保存の環境さえわからないからです。
食品製造メーカーは食材の納入から製造、包装から出荷までを自社管理の下で行います。
各工程での抜き打ちチェックや製品のサンプリングなど、厳重な衛生検査を経て出荷に至ります。
多くの試作とモニタリングの末に、石橋をたたきに叩いた賞味期限・消費期限を設定しています。
言わずもがな、賞味期限とは品質や味が保たれ、美味しく食べることができる期間を設定したものです。
一方で消費期限とは、劣化の早い食品において、適切な保管方法をしたとしても食べきらなければいけない期限です。
どちらも過ぎたからと言って、すぐに腐敗・変敗するわけではありません。
急速冷凍機能の使いこなし術
冷凍焼けを抑えるため、魚の切身を真空パックしてから冷凍したい場合、急速冷凍を使いこなすとうまくできます。
90kPaクラスの真空パック機では、空き缶さえつぶせる脱気力があります。
そんな力で身のやわらかい魚を密封すれば、食材は大きなダメージを受けてしまいます。
さらに、脱気密封してしまうことで熱が外気中に逃げにくくなり、温度が下がるのも遅くなってしまいます。
これでは最大氷結晶生成帯の通過が遅れ、解凍時のドリップ量も最大化してしまうというものです。
この問題を避けるためには、下記の手順がベターです。
- 真空袋に魚の切身をならべる
- 急速冷凍室の金属トレーの上で冷凍
- 真空パック機で脱気密封
- 解凍時は流水・氷水で急速解凍
注意点として、解凍品の再冷凍は品質の劣化が激しいため、避けたほうがいいです。
スーパーの鮮魚コーナーでは、サービスで魚を三枚におろしてくれるところもあります。
骨と皮の処理をしてからフィレで急速冷凍し、真空パックすると鮮度良く保て、解凍後もすばやく料理することができます。
真空パックに向いている食材・食品
真空パックに向いている食材・食品には次のようなものがあります。
- 大きすぎないブロック肉
- フィレ、柵などに切り分けられた鮮魚
- ブランチングしてある野菜
- においの出る乾物
- 脱気密封後に再加熱できる料理
まとめ:ポイントを抑えて真空パック機で食費節約
まとめると、こうなります。
真空パックには知っておかなければならない4つの盲点がある。
- 真空にしたから安全とは限らない
- 業務用の真空包装機は次元が違う
- 真空パックして冷凍すると鮮度が悪くなるかも
- 真空パックに向いてない食材はけっこうある
ならばどうするべきか。
- 何が危険なのか理解しておくこと
- 「つけない・増やさない・やっつける」それぞれのコツ
- 自身で賞味期限・消費期限を判断するということ
- 急速冷凍室があるならば使いこなすべき
- 真空パックに向いている食材を把握しておく
真空パック機を上手に使いこなせば、食材ロスを減らし、食費の節約にも大いに貢献してくれるでしょう。
そして何より、保存の技術としてだけではなく、調理方法として利用することでその真価を発揮してくれるのです。
シンクウキッチンとの出会いがそのきっかけになるのであれば、これほど嬉しいことはありません。


コメント