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技法とコラム

危険!低温調理ローストビーフはやめとけ|プロの料理人や料理研究家さえも教えてくれない11のふか~い落とし穴

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本当に大丈夫・・・・・・?」

自信満々で作った低温調理ローストビーフ…

パートナーからのひとことに言葉をつまらせたことはありませんか?

「たんぱく質の熱変性が~」
「赤いのは血ではなく~」
「63℃で30分加熱したから〜」

ちがう、そうじゃない。

問われているのはそんなうんちく・・・・ではなく、ストレートに安全かいなです。

食事というイベント全体を通して考えるなら、リスクゼロの安全な食べものなどあり得ないのです。

しかも、ローストビーフのような宴席えんせき向けの料理だというのならば、ことさらに注意が必要です。

すっかり定番になった低温調理ローストビーフですが、何時間加熱しようとも60℃よりも低い設定での調理はおすすめしません。

自分で作って食べるだけなら自己責任で済む話なのですが、誰かのために作るのならば、そこには重大な責任を伴います。

高齢者や幼児、免疫力の弱い方への提供は十分に配慮されていますか?

本当は恐い低温調理ローストビーフの危険性について、もう少し警戒けいかいしてみませんか?

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低温調理ローストビーフの妥当な設定温度と時間

できあがった時点での安全性ということであれば、基準になりうる指標がおおやけの機関からも発信されています。

内閣府:食品安全委員会|肉を低温で安全においしく調理するコツをお教えします

もしも、シンクウキッチンで低温調理ローストビーフを紹介するならば、ご案内する加熱温度と時間は次のとおりです。

設定温度65℃以上にて、中心部63℃到達から30分以上保持

チャンバー式の真空パック機、真空調理用のムーステープを使い、プローブ接続タイプの中心温度計での実測は必須です。

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下処理を含めて調理時間は3時間までとし、加熱後は急速冷却して喫食することが前提です。

さらに、以下のような細かい条件も指定します。

  • 鮮度の適切な冷凍されていない肉を使用
  • 食材はおよそ5cm×5cm×15cm、400gを超えないサイズ
  • 調理者は衛生的な服装で、必ず食品加工用の使い捨て手袋を着用
  • フォークで刺す、ミートテンダライザーを使うといったテンダリング処理は禁止
  • 低温調理器への投入前には食材表面の菌を減らす処理を行う
  • チャンバー式真空パック機を使用して真空パック
  • 中心温度計での計測は必須
  • 加熱終了後はフィルム状の袋に入れ、30分以内に冷却を開始し、90分以内に中心温度3℃付近までの氷水冷却
  • 開封とカットは必ず冷却完了後から行う
  • 前日からの調理はしない
  • キッチンの室温は20℃以下、カット・盛りつけは食材が10℃を超えないうちに行い、提供直前まで冷温保持
  • 提供後、2時間以内に喫食
  • 取り分けには専用のサーバーを使用する

はたして、こんなめんどうなことを誰がするでしょう・・・

それでいて、中心温度63℃/30分以上の加熱ではジューシーな食感も望めませんし、くすんだロゼ色は見た目にも残念でしょう。

しかし、大切な家族や客人を前に安心して振る舞える低温調理ローストビーフを考えると、どれも外せない条件ばかりなのです。

真空調理・低温調理の大きなデメリットのひとつが、途中で味見ができないことです。

つまり、サンプルを同時に設けない限り、状態が未確認のまま提供することになる可能性が高いのです。

低温調理ローストビーフで見落としてはいけない11の落とし穴をのぞいてみましょう。※加筆・修正により10項目になりました。

低温調理ローストビーフ、10の落とし穴

  1. 熱平衡ねつへいこう:低温調理の中心温度はそうかんたんに上がらない
  2. 熱伝導率ねつでんどうりつ:続・低温調理の中心温度はそうかんたんに上がらない
  3. 二次汚染の警戒がゆるすぎ
  4. 危険温度帯きけんおんどたいの滞在時間への警戒もゆるすぎ
  5. 至適温度してきおんど最警戒さいけいかいする
  6. 肉は表面にしか菌はいない説には盲点がある
  7. 特定加熱食肉製品とくていかねつしょくにくせいひんには厳しい基準がある
  8. D値・Z値は素人が扱えるものではない
  9. 家庭での食中毒の実態は見えない
  10. 調理時間の短縮化は全体的に考えなくてはならない

熱平衡(ねつへいこう):低温調理の中心温度はそうかんたんに上がらない

もっとも重大な低温調理ローストビーフのリスク要因です。

低温調理器で60℃/1~2時間設定したところで、中心部まで60℃に達することはないでしょう。

2つの物質において、熱が高温側から低温側へ移動し、やがて同じ温度になることを熱平衡ねつへいこうの状態といいます。

次のグラフは、冷蔵保存された鶏もも(200g~220g・厚み1.0㎝~2.0㎝)を2種類の温度設定で計測したものです。

業務用機器を使用して70リットルの水量で行っているので、検体投入時の水温低下は極めて小さいものです。

設定温度は70℃・75℃、中心温度70℃/3分間(75℃/1分間と同等)の確保を目的としたものです。

次に、検体の条件をそろえるため、水1000mlを真空パックし、内部にプローブ式の中心温度計を差し込んで温度計測したデータがこちらです。

ふたつのグラフから以下のことが読み取れます。

  • 設定温度が低いほど到達までに時間を要する
  • 設定温度に近づくほど温度上昇は鈍化する

この傾向は食材に厚みがあるほど顕著にあらわれます。

ネット上でちらほら見かけますが、厚みが7㎝(およそ人差し指から小指までの幅)を超えるような牛モモ肉を使った場合、低温調理器58℃/2時間程度の設定で中心温度が58℃に到達することはありません。

おそらく54~56℃。ステーキの焼き加減に例えれば、それはレアどころかほぼ生肉に近いブルーの領域。

噛み心地はくちゃくちゃとし、血なまぐさい仕上がりであるはずです。

もしも、この食材が食中毒原因細菌に汚染されていたとしたら、長時間にわたって彼らのために最高の発育環境を整えてあげているようなものです。

言わずもがな、10℃~60℃とは食中毒原因細菌の増殖の可能性が消えない危険温度帯・・・・・です。

熱伝導率(ねつでんどうりつ):続・低温調理の中心温度はそんなにかんたんに上がらない

先の項をもう少し掘り下げます。

低温調理ローストビーフの場合、熱源→湯せんの水→袋素材へと、段階的に熱エネルギーが移動します。

さらに袋の中でも、わずかなマリネオイル・炭水化物・脂質・たんぱく質などからなる複合的な物体を伝導伝熱が移動します。

本来、熱伝導は単一の物質を移動する熱を指し、物質それぞれの熱の伝わりやすさは熱伝導率として数値化されています。

熱伝導率が小さいほど、熱を伝えにくい物質ということになります。

物質熱伝導率(W/mK)
ポリエチレン(低密度)0.33
ポリエチレン(高密度)0.46~0.50
0.6
空気0.028
オリーブオイル0.16
炭水化物0.245
脂質0.18
たんぱく質0.20
20~40℃での各物質・成分の熱伝導率

低温調理ローストビーフに関連する成分を見てみると、とりわけ空気の熱伝導率がけた違いに小さく、加熱の工程に大きな影響力を持つことがわかります。

おそらく保温性を高めたいという意図なのでしょうが、ラップで巻いたうえにさらにフリーザーバッグに入れて湯せんするという行為は、空気の断熱層だんねつそうを自ら作るという悪手でしかありません

熱エネルギーは必ず、高温側から低温側へ移動します。

つまり、やっていることは保温ではなく断熱・・なのです。

また、ポリ袋に入れて水圧で押しだす簡易的な脱気と、チャンバー式真空包装機の脱気密封を同じ加熱時間で考えるのも苦しいものがあります。

このように、熱平衡やもろもろの熱伝導率を考慮すると、60℃を下回る設定での食中毒リスクは、決して安易に考えられるものではないのです。

二次汚染(にじおせん)の警戒がゆるすぎ

二次汚染にじおせんとは、すでに汚染された食品などに付着する食中毒原因微生物が、人の手や包丁・まな板・冷蔵庫の取っ手・手拭き用のタオルなどを経由し、別の食材を汚染することです。

交差汚染こうさおせんとも呼ばれます。

これに対し、一次汚染とは動植物が生育・生産段階、環境中ですでに食中毒原因に汚染されていることを指します。

消費者の心理として、販売時点の汚染や一次汚染を疑いたい気持ちもわかりますが、家庭においては二次汚染のリスクの方が圧倒的に高いでしょう。

そのぐらい、食中毒菌を含め一般生菌はそんじょそこらで我々と共存しています。

あなたの髪や皮膚、衣服にも文字どおり何処どこにでも。

どんなに加熱したとしても、盛りつけ以降で二次汚染されればその意味はありません。

家庭のキッチンとは、ペットの自由な往来や開放されたリビング、1日中使いっぱなしの手ぬぐい、毛髪の混入が避けられない服装など、何をとっても食品製造の現場ではあり得ない衛生環境なのです。

危険温度帯の滞在時間への警戒もゆるすぎ

危険温度帯とは、食中毒原因菌が増殖可能とされる温度帯です。
日本では10~60℃、アメリカでは4.4~60℃とされています。

国際的に見ても10~60℃を危険温度帯とする保健機関は多く、この温度帯をいかに避けるか・いかに速く通過させるかでリスクの度合いがずいぶんと変わります。

家庭で低温調理・真空調理を楽しむ上で、食品安全技術センター代表・今城敏いまなりさとし氏の発信する動画や書籍には参考になるものが多数あります。

低温調理で身近な人々を悲劇に巻き込まないためにも、食品衛生の勉強を遠ざけないでください。

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至適温度(してきおんど)は最警戒する

細菌の分裂が最も活発になる温度で、おもな食中毒原因菌は40℃前後を至適してきとします。

たった1個の菌であっても、5回分裂すれば32個、10回分裂すれば1024個にまで増殖してしまいます。

分裂に要する時間は温度や菌によって違い、至適温度においては腸管出血性大腸菌ちょうかんしゅっけつせいだいちょうきん・サルモネラ菌で18分に1回、腸炎ビブリオにいたっては9分で1回分裂すると言われています。

つまり、2〜3時間も常温放置すれば、リスクは1000倍超にまで増大するということです。

腸管出血性大腸菌O-157やカンピロバクター・ジェジュニなどは、わずか100個ほどの菌数で感染が成立し、重篤な症状や後遺症までも懸念されます。

文字どおり、ほんの数十分の油断が命取りになってしまうといっていいでしょう。

食材の加熱不足だけに気を取られがちですが、つけない・ふやさない仕組みづくりも重要な衛生管理。口に運ぶそのときまで危機管理ポイントは点在し、リスクがゼロになることはありません。

ゆえに、安全な食べものなどないのです

肉の表面にしか菌はいない説には盲点(もうてん)がある

「牛肉には表面にしか菌がいないから、ステーキの焼き加減はレアでも大丈夫」

たしかに、多数の研究や保健機関からも公表されているようにそれは事実です。

しかし、もちろん前提となる条件や部位があり、中には一般家庭ではコントロールできない項目もあります。

例えば、高級ステーキレストランで直前にブロック肉から切り出されて焼かれるステーキと、スーパーで購入するパックのステーキ肉とでは表面の生菌数に雲泥の差があります。

万が一、その生菌に食中毒原因菌が含まれていたら・・・

時間経過とともに菌はより内部へと到達できるので、カットや加工が進むほど深い部分が汚染されるリスクも増大していきます。

都合よく解釈しがちなあの説ですが、枝肉えだにくや、ブロック肉から切り出された直後の筋肉部位では」という前提をお忘れなく。

特定加熱食肉製品(とくていかねつしょくにくせいひん)には厳しい基準がある

総菜そうざいコーナーのローストビーフがどうも美味しそうに見えない訳は、「基準的にできないから」です。

見るからに肉々しいローストビーフなど作れないのです。

食肉製品の分類では、低温調理ローストビーフは特定加熱食肉製品とくていかねつしょくにくせいひん該当がいとうします。

厚生労働省ホームページからアクセスできる、『食品別の規格基準について:食肉製品』の特定加熱食肉製品の項を参照し、温度と時間の設定の根拠にしているレシピもあるようですが、ここにも思わぬ落とし穴があります。

g.製品は、肉塊のままで、その中心部を次の表の第1欄に掲げる温度の区分に応じ、同表の第2欄に掲げる時間加熱し、又はこれと同等以上の効力を有する方法により殺菌しなければならない。この場合において、製品の中心温度が35°以上52°未満の状態を170分以内としなければならない。

厚生労働省:食品別の規格基準について 食肉製品
第1欄第2欄
55°97分
56°64分
57°43分
58°28分
59°19分
60°12分
61°9分
62°6分
63°瞬時
食肉製品 3.特定食肉製品g項の表

この部分だけを参照してしまうと、低温調理ローストビーフも表中の加熱時間で問題ないように思いこんでしまいます。

しかし、この前後の部分には、家庭では管理不可能であろう条件も明記されています。

3.特定加熱食肉製品

特定加熱食肉製品は、次の基準に適合する方法で製造しなくてはならない。

a.製造に使用する原料食肉は、と殺後24時間以内に4°以下に冷却し、かつ、冷却後4°以下で保存した肉塊でpH6.0以下でなければならない。

b.製造に使用する冷凍原料食肉の解凍は、食肉の温度が10°を超えることのないようにして行われなければならない。

c.製造に使用する原料食肉の整形は、食肉の温度が10°を超えることのないようにして行われなければならない。

d.食肉の塩漬けを行う場合には、肉塊のままで、乾塩法又は塩水法により行われなければならない。

e.塩漬けした食肉の塩抜きを行う場合には、5°以下の食肉製造用水を用いて、換水しながら行わなければならない。

f.製造に調味料を使用する場合には、食肉の表面にのみ塗布しなければならない。

g.製品は、肉塊のままで、その中心部を次の表の第1欄に掲げる温度の区分に応じ、同表の第2欄に掲げる時間加熱し、又はこれと同等以上の効力を有する方法により殺菌しなければならない。この場合において、製品の中心部が35°以上52°未満の状態を170分以内としなければならない。

h.加熱殺菌後の冷却は、衛生的な場所において十分に行われなければならない。この場合において、製品の中心部が25°以上55°未満の状態の時間を200分以内としなければならない。
なお、冷却に水を用いるときは、流水(食品製造用水に限る。)で行われなければならない。

i.冷却後の製品の取扱いは、衛生的に行われなければならない。

厚生労働省:食品別の規格基準について|食肉製品[PDF]より引用

そもそも、普段の買いもの帰りに4℃以下に保つことなどできませんし、家庭のキッチンの室温が10℃以下というのも非現実的です。

製品レベルの安全性とは、ここまで厳格に管理されてこそ得られるものであり、裏を返せばこの条件がすべて満たせないのであれば、表中の時間の加熱を行っても安全性の根拠とはなり得ないということです。

D値・Z値は素人(しろうと)が扱えるものではない

D値・Z値は低温殺菌における菌数の増減を表すもので、許容できるリスクにまで菌を減らすために用いられる指標です。

こちらでも食品安全技術センター代表・今城敏いまなりさとし氏のわかりやすい動画を紹介します。

【加熱殺菌講座】2)活用例でわかるD値・Z値

D値・Z値には数式があるため、理数系が得意ならば関数電卓アプリを駆使して50℃台の加熱時間も求めることもできます。

しかし、ここにも盲点が。

一般的な食中毒原因菌はZ値=5.0~8.0℃とされていますが、保存を前提とする低温調理・真空調理では明らかに不十分な値です。

低温調理・真空調理の天敵、偏性嫌気性へんせいけんきせい芽胞形成菌がほうけいせいきんを懸念すると、Z値=7.0~11.0℃までを考慮する必要があります。

しかもこれは、あくまでも細菌に関するものであり、すでに産生された毒素やウイルスの中には、これに当てはまらない耐熱性を持つものも少なくありません。

雪印乳業食中毒事件の原因でもあった黄色ブドウ球菌が産生した毒素エンテロトキシンや、腸管出血性大腸菌O-157の産生するベロ毒素の失活要件にはなり得ないのです。

少なくとも、結果のモニタリングも菌数検査のすべもない家庭料理のレベルで扱える指標ではありません。

家庭での食中毒の実態は見えない

食品製造業の調理室と家庭のキッチンでは、設備も違えば構造や管理体制のレベルもまるで違います。
都合よく低温調理器の設定と時間だけを流用しても、リスクの抑制には程遠いでしょう。

なにより、家庭で発生する食中毒を正確に把握することはできません。

なぜなら、潜伏期間は人により差があり、いつの食事が原因の体調不良なのか判別が困難であるためです。

おそらく、短時間の問診では急性胃腸炎と診断される場合が大半で、食中毒の原因特定はできません。

それゆえ、報告件数も少なく実態は把握できないのです。

低温調理器の普及により、小規模食中毒が増加しないことをせつに願うばかりです。

低温調理ローストビーフは、オーブンで焼く本来のローストビーフと別もの

オーブンと低温調理器、使用する調理器で料理の質やリスクの度合いも変わります。

オーブンで調理するローストビーフは、外から中へと境目さかいめのないグラデーション状に熱が入ります。

調理中のオーブン庫内と食材中心の温度差は100℃以上。
加熱は輻射熱ふくしゃねつ対流熱たいりゅうねつからの熱伝達、そして表層からの伝導伝熱でロゼ色の中心温度を目指します。

食材のサイズとオーブンの温度をもとに見えない部分の色を判断するという、卓越たくえつした技術が求められます。

外側の脱水されてうま味が凝縮した部分と、中心部のジューシーでやわらかい部分を同時に楽しめるダイナミックな料理です。

上等なロゼ色の部分だけを求めるにはあまりに歩留ぶどまりが悪く、余熱よねつ効果で加熱が進むことを計算に入れると、大振りなブロックで焼くのに適しています。

常温付近で食べることが前提で、パーティー演出として目の前で切り出しながら提供される場合もあります。

一方、低温調理のローストビーフは、外も中も均一にしっとりとやわらかいエリアです。
表層の焼き色は、装飾的に別の工程でつけられます。

基本の加熱はフィルムを介した熱伝導ねつでんどうによる恒温加熱こうおんかねつです。

全体をロゼ色に仕上げる工程と、表面を焼きつける工程を分けているため、色合いの境界はセパレート状にくっきりと出ます。

温度コントロールが容易で失敗する要素が少ない加熱方法と言えるでしょう。

保存を前提とし、冷温で提供されます。

また、脱水量も少ないため歩留まりもよく、全体的なロゼ色が料理の華やかさを演出します。

しかし、危険温度帯の滞在時間を考慮すると、あまり大きな肉塊にくかいは使用できません。

オーブンで仕上げる旧来のローストビーフと、真空調理・低温調理で仕上げるローストビーフでは含有がんゆうする水分量がまるで違うので、当然ながら味も違います。

全体工程の煩雑はんざつさから考えると、低温調理ローストビーフのほうが二次汚染のリスクは高いと言えるでしょう。

全体的な調理時間の短縮化を考えなくてはならない

低温殺菌の目的は、許容できるリスクまで菌数を減らすことです。
ゼロに近づきはしますが、決してゼロにはなりません

言いかえれば、仕込み中であろうが包装後の冷却中であろうが、10~60℃の危険温度帯に滞在するならばリスクは増すということです。

もちろん、盛りつけてテーブルの上に置かれてからも。

つまり、時間の短縮化は料理というイベント全体で考えなければならないのです。

調理方法と作業目的があべこべで、必要のない作業に時間を取っているケースはないでしょうか?

例えば、肉を焼く前にしばらく常温に放置するという手順は、厚切りのステーキなどで内外の温度差を小さくするためのものです。

しかし、大振りなブロックが想定される低温調理ローストビーフでは、なかなか常温になるものではありません。

水は空気よりも20倍以上も熱伝達率にすぐれています。

食品可の薄手のポリ袋に入れ、常温付近の水につけること温度を上げてはいけないのでしょうか?

じかに流水に当てるわけではないので20倍とまではいきませんが、かるく数倍は早く常温に戻せます。

細心の注意を払うのであれば、中心温度計を使って必要最低限の時間で済ませる必要もあるでしょう。

また、加熱後に肉汁を休ませるという手順がありますが、ようは加熱されたことでゾル状(液体)になったたんぱく質を含んだ肉汁を、ゲル状(ゼリー)になる温度まで下げるということです。

つまり、最終的な装飾のための加熱を行うのであれば、フィルムでさえぎった状態で目標温度の水中に沈めるのが最も効率的な冷却方法なのです。

さらには、加熱時間そのものの短縮を図ることも検討してください。

食材の厚みを抑えて加熱時間を短縮し、盛りつけ時はそぎ切りにして面積を取るなど、工夫次第で加熱時間を短縮することもできます。

危険温度帯の滞在時間を考えれば、盛りつけの手際や提供のタイミング、室温に応じた差し替えの用意や下膳げぜんまでのタイムリミットも考慮しておく必要があります。

あおりたいわけではありませんが、低温調理器での加熱中もリスクの火種はくすぶっています。

生肉の状態から60℃以下で真空調理・低温調理する場合、残存する菌が増殖し加熱中の食材を汚染していく可能性も否定できません。

リスクを抑えるためには、袋に入れる前に熱湯消毒して初発菌数を抑えるなどの、殺菌を目的とした加熱処理をおすすめします。

低温調理・真空調理においては、加熱の目的を、調理・殺菌・装飾の3つに分けて工程を組んでいくという考え方で、ひとつひとつ確認しながら、チュートリアルのように進めることも可能です。

反対に通常調理とは、これら全てをリアルタイムでおこなっている、じつにハイレベルなパフォーマンスだとも言えます。

まとめ:低温調理の料理をふるまう責任はそれほど軽くない

低温調理器の普及で、家庭での食中毒が増加しないか不安視ふあんししています。

±1.0℃程度の温度が保たれるのであれば、低温調理器の性能に大差はありません。

大きな差が生まれるのは調理者の衛生知識、危機管理の能力です。

単純なところでは、色あいと食感のイメージからステーキの焼き加減と混同されがちですが、低温調理ローストビーフの設定温度と時間は全く意味が異なります。

加熱不足であった場合のリスクは、ステーキよりも喫食きっしょくまでにタイムラグがある低温調理ローストビーフのほうがはるかに高いのです。

ローストビーフは宴席向けの料理です。

そこには客人きゃくじんや家族があり、個々の体質体調はことさらに違うということを忘れてはいけません。

直面している脅威きょういは目に見えないうえに無味無臭むみむしゅうです。

目に見えないほどに小さい微生物の怖さを思い知らされている昨今さっこん、低温調理の危険性についてももっと認知される必要があると感じています。

低温調理という呼び名が定着していますが、本来は真空低温調理。
真空調理とイコールです。

家庭向けの低温調理器が登場したことで、真空調理のごく一部のメニューがクローズアップされ、低温調理と呼ばれているふしがあります。

シンクウキッチンでは、施設給食などで実践されている真空調理をベースに、真空パック機と低温調理器を使った家庭向け真空調理・低温調理に取り組んでいます。

これを機に、さらに広い真空調理の世界にご興味をお持ちいただければ幸いです。

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