低温調理と真空調理は、おなじ調理方法です。
専門的な分野の教科書や論文では、真空低温調理法とも記述されます。
身近なところでは、コンビニにも常設されている一部のチルド袋もの惣菜などが真空低温調理法により製造されています。
もしも、そのような真空パックされたおかずが自分で作れるとしたら、どんなに便利でしょう?
- 作りおきよりもずっと長持ち
- 冷蔵庫内でコンパクトに収納できる
- ひとり分からでも調理が可能
- 脱気密封まで済んだらあとは機械まかせのほったらかし
- うす味・濃味、好き嫌いもパックごとに自由自在
- ガスの火を使わないから安心
使う場面も想像がふくらみますよね。
- 帰宅時間の読めない家族の食事に
- 近くに住む高齢の親の介護食に
- 勉強にはげむ子どもの夜食に
- ホームパーティーの仕込みに
業務用の調理機器に比べれば性能は劣りますが、家庭向けの調理機器でも真空調理は可能です。
当サイト『低温調理・真空調理 シンクウキッチン』では、低温調理器や真空パック機などの家庭向け機器を使い、コンビニの冷蔵ショーケースに並んでいるようなチルド袋もの惣菜のような、おかずの低温調理・真空調理を紹介しています。
いま、ご覧になられている低温調理講座のカテゴリーでは、4回にわたって低温調理・真空調理の仕組みやはじめ方、手順などを紹介しています。
ぜひ、続けて目を通してみてください。
低温調理・真空調理とは?
わかりやすく言うと、フィルム状の袋に食材を入れ、空気を抜いて湯せんやスチームで加熱する調理方法です。
食品製造や給食などの大量調理を必要とする施設では、真空低温調理法とも呼ばれます。
「煮る・焼く・蒸すに次ぐ第4の調理法」と言われますが、その本質は熱伝導による全方向からの恒温加熱だと言えます。
※恒温(一定の温度)
「煮る・蒸す」の対流熱とは違い、やさしく包み込むように熱が伝わるため、煮くずれしにくく狙いどおりの温度で加熱することができます。
フランス料理の真空調理法として日本に伝わり、家庭向けの機器でも可能なメニューが低温調理としてクローズアップされるようになりました。
業販向けの真空調理とは?
食品製造などの分野では、100℃未満の湿式加熱(ボイル・スチーム)は低温域の加熱調理として扱われます。
真空低温調理は、まだ未完成の食材を調味液とともに真空パックし、95℃以下で加熱する調理法です。
未開封のまま加熱殺菌・急速冷却されるため、保存性に優れ、数日前からの計画的な調理が可能になるというのが最大メリットです。
また、再加熱するだけで提供できるという簡便さから、少ない人員で大人数の調理・配膳が行われる給食業界にとってはなくてはならないシステムです。
レトルトパックとは違うの?
レトルト(Retort)とは、もともと化学用語で蒸留釜を指します。
耐熱耐圧、遮光性などの特殊な素材の袋に入れて真空パックし、中心部の温度を120℃で4分間以上、またはこれと同等以上の効力を有する方法で加圧加熱殺菌した食品をレトルトパウチ食品と呼びます。
透明な袋で遮光性がない場合、加圧加熱食品と表記されます。
レトルトパウチ食品はすでに出来上がった食品を長く常温で保存するための技術であり、調理方法としての真空低温調理とは意味合いが異なります。
家庭向けの低温調理・真空調理とは?
家庭向け低温調理・真空調理とは、ふつうのコンセントで動作する低温調理器や真空パック機を使用した調理方法です。
業務用機器や設備ほどの性能・精度はないため、同じような保存日数は期待できません。
しかし、便利さやおいしさなどその他のメリットも十分にあるため、作りおきの進化版の感覚で楽しむことができます。
近年、メンテナンスの簡易なドライポンプを使用した家庭向けのチャンバー式真空パック機が登場したことで、家庭向け真空調理に必要な全てのパーツが出揃いました。
液体の真空パックはさらに業務用に近づき、家庭でも低温調理・真空調理を楽しむことが当たり前のようになってくるでしょう。
真空パックするってどういうこと?
「真空パックする」とよく耳にしますが、その動作を言葉にすると「真空の仕組みを利用して脱気密封する」ということになります。
日本産業規格(JIS)では、真空とは「通常の大気圧より低い気圧で満たされた空間の状態」と定義されています。
つまり、山頂などの開放的な場所は気圧が低くても真空とは呼べません。
脱気密封できる機械のうちで袋の中まで真空にできるのは、ボックス内全体を減圧できるチャンバー式真空包装機だけということになります。
ほぼすべての家庭向けの真空パック機は袋の中の空気を吸い出す仕組みで、骨組みでも入れない限り食材と袋が密着した時点で真空(減圧)にはなり得ません。
ただし、キャニスターを接続することで、減圧空間を別に作り出せる機種もあります。
つまり、「真空(減圧)空間もつくれるパック機」ということなので、ネーミングも解釈次第です。
真空(減圧)下で食材はどうなる?
子どもの頃、口にコップを吸い付けたことはありますか?
あのコップの中はまさに減圧空間です。
わずかとはいえコップ内の気圧は大気圧1.0を下回っています。
じんわりとピリピリとした感じがし、長く続けるとうっ血してしまいますよね。
では、野菜を減圧空間に置くとどうなるでしょう?
気体は減圧されれば膨張し、加圧されれば凝縮する性質があります。
多くの野菜は顕微鏡で見るとスポンジ状の構造になっており、表層に近い部分では野菜内部の空気も膨張しているということになります。
では、ここに液体を入れた場合はどうなるか?
まず、膨張したすき間から内部の空気と置き換わるように液体が入り込みます。
真空が開放され常圧まで加圧されると、表層部に入り込んだ液体は押し込まれるようにさらに内部へ浸潤していきます。
真空パックすると味の染み込みが早いというのはこのためです。
また、水には減圧されるほど沸点が下がるという特性があります。
そのため、減圧空間では常温以下でも沸騰し、液体が蒸発していく様子も見ることができます。
不思議なことに熱エネルギーの移動はほぼないため、触れても熱いわけではありません。
こうした特性は、減圧下で野菜やくだものの風味や色あいを残したまま凍結・乾燥させるフリーズドライや、真空乾燥法という加工技術に応用されています。
真空=安全なの?
真空パックされているから安全というわけではありません。
食中毒原因細菌の多くは、空気があってもなくても増殖が阻害されることのない通性嫌気性または、むしろ空気がないところでこそ増殖できる偏性嫌気性です。
パック後の二次汚染は防げますが、残留していた場合は菌の増殖を必ずしも抑えられるわけではありません。
安全性については、脱気密封後の加熱殺菌、急速冷却および保冷の性能が重要になってきます。
低温調理・真空調理のイメージの違い
本質的には同じものといっても、一般的には低温調理と真空調理の持つイメージは異なります。
- 家庭でも可能な範囲
- 少量の調理
- 作ってすぐに食べる事が前提
- ポリ袋やフリーザーバッグなど身近な袋でできる
- 低温調理器で湯せん加熱
- 水圧による簡易的な脱気
- 60~70℃台の肉料理・魚料理が中心
- 業務用機器が必要
- 大量の調理
- 数日~数週間程度の保存が前提
- チャンバー式真空包装機で真空パック
- 湯せん器、またはスチームコンベクションオーブンで蒸気加熱
- 60℃~95℃以下
- 煮ものなどあらゆる料理
しかし、両者の変わらない本質的な部分とは、熱伝導(伝導熱)による全方向からの恒温加熱です。
低温調理・真空調理のメリット、デメリット
低温調理・真空調理には以下のようなメリット、デメリットがあります。
メリット
- プロ並みの絶妙な火入れがかんたんにできる
- 通常調理に比べ日持ちする
- コンパクトで収納性が高い
- 個包装や再加熱など利便性が高い
- 計画的な調理が可能
- 味のブレが小さく再現性が高い
- 少ない調味料で味付けできる
デメリット
- 厳格な衛生管理が必要
- 味見ができない
- 腐敗に気づきにくい
- 包材や機材などコストがかかる
- 手間がかかる
低温調理・真空調理の手順は?
- 下処理
- 袋詰め
- 調味液の投入
- 脱気密封
- 一次加熱
- 冷却
- 二次加熱
真空調理は基本的に上記の7つの工程で進みます。
恒温加熱するためには温度変化の緩やかな湯せんが適しています。
そして、水中に沈めるためには脱気密封が必要であり、より精度の高い脱気密封の方法として真空包装が用いられ、真空調理と呼ばれるようになったという説もあるようです。
現在、業務用途ではスペースや熱効率に優れたスチームコンベクションオーブンによる加熱が主体です。
低温調理として紹介されるレシピの多くは、一次加熱のあとにすぐに仕上げて食べるステップであるため、真空調理とは異なるイメージを持たれがちですが、本質的には両者は同じ調理方法です。
関連記事:2.低温調理の手順
低温調理・真空調理のメニュー例と必要な道具は?
低温調理・真空調理をわかりやすくするため、中心となる温度帯・使用する調理機器でレベルを分けてみました。
※あくまでもシンクウキッチン独自の区分けです。
レベル1 低温調理器と身の回りのキッチンツールでできる低温調理
最も身近な低温調理・真空調理といえば、ゆでたまごです。
殻がフィルムの代わりとなり、すでに脱気密封された状態といえます。
かたゆでや半熟に温泉たまごなど、まさにTempareture(温度)とTime(時間)のTT管理そのもの、さしずめレベル0といったところでしょう。
レベル1に相当するのは、単一食材を中心としたメニューです。
袋をシールする必要もないメニューも多く、低温調理器と身の回りのキッチンツールで調理できます。
- ナイロン袋やポリ袋、フリーザーバッグ
- 低温調理器
- パスタ鍋など深めの鍋
サラダチキン、味つきたまご、ビーフステーキの下処理、豚の角煮など
レベル2 調味液を使用した野菜の真空調理・低温調理
レベル2からは、作りおき程度の保存を前提とした、本格的な低温調理・真空調理です。
業販向けの真空調理・低温調理をベースに、濃縮つゆを調味液に見立てて真空パック機で脱気密封して行います。
- 下処理
- 袋詰
- 味つけ
- 脱気密封
- 一次加熱
- 冷却
- 二次加熱
上記7つの工程で進行し、保存して使用することを前提にしています。
日持ちの期間は、脱気密封の精度、保冷のクオリティに大きく左右されます。
- 中心温度計
- サラダスピナー
- ノズル式真空パック機、またはチャンバー式真空パック機
- 食品用のナイロンポリ製・エンボス加工なしの真空袋
- 温度設定の可能な電気圧力調理器
などの調理機器を使用します。
更に詳しくは、こちらをご覧ください。
関連記事:3.低温調理に必要な機器
きんぴらごぼう、小松菜の煮びたし、かぼちゃの煮もの、白菜と厚揚げの煮もの、根菜雑煮、高野豆腐の含め煮など
レベル3 異なる処理温度の複合メニュー、その他
家庭向けのチャンバー式真空パック機が登場したことにより、さらに本格的な真空調理・低温調理が可能となりました。
例えば、切り落としやこま切れのお肉と野菜を組み合わせた煮ものや、あとは仕上げするだけという段階に仕上げたたまごとじの丼の素などです。
肉や魚介のたんぱく質と、野菜をかたどる多糖類(セルロース・ペクチンなど)では変性の仕組みが異なるため、おいしく食べやすくなる温度が違います。
そこで、それぞれを別の温度で下処理し、殺菌も加味しつつ袋の中で熱変性をコントロールし、最終的な加熱調理も済ませるという調理方法です。
真空調理でなければ成り立たない調理方法とも言えます。
レベル3 では下記の調理器具を使用します。
- 中心温度計
- サラダスピナー
- 真空パックんシェフ2

- 耐熱100℃のナイロンポリ製の真空袋
- 温度コントロールのできる電気圧力鍋
肉じゃが・牛丼の具・親子丼の具・筑前煮など
なにも真空調理・低温調理だけですべての料理を済ませる必要はありません。
主菜・副菜どちらかを真空調理・低温調理に置き換えたり、仕込みに応用するだけでも、ずいぶんと日々の炊事がラクになるはずです。
帰宅時間の読めない家族のため。
がんばって勉強している子どもの夜食のため。
料理させるのが不安になってきた高齢の親のため。
使い方はあなた次第。
いろんなシチュエーションで、活用できると思います。
特別な日の料理から何気ない日常の料理まで、低温調理・真空調理を存分に楽しんでください。









低温調理・真空調理を学ぶには?
真空調理はすでに40年以上の歴史を重ねています。
フォワグラの歩留まりをうんぬんかんぬんというのは、すでにどこかで目にされたこともあるでしょう。
ここでは、他にはあまり書かれていないことを記しておきます。
低温調理・真空調理は、日本の真空調理の礎を築かれた谷孝之氏の流れをくむ『谷方式』と、フランスの食肉加工業者ジョルジュ・プラリュ氏による『プラリュ方式』の2つの流れに大別されます。
『谷方式』の基本的な考え方は、加熱温度と食材芯温をほぼイコールに設定するもので、過加熱を防ぎつつ低温殺菌も同時に達成させるという時間のかかる手法です。
一方、『プラリュ方式』とは、加熱温度を目標とする食材の芯温よりも高く設定する場合が多く、調理時間は短いが常に温度の監視が必要な手法です。
グラデーションの入り方など、擬似的に低温オーブンを想定していると考えられますが、低温殺菌に必要な温度や時間など、十分に確認しておく必要があります。
『プラリュ方式』と『谷方式』はそれぞれ別々の場所、独自の路線で研究されていました。
そして、それがひとつに融合したのは今から30数年前、1990年のことです。
その年の12月、当時のトップシェフ、ジョエル・ロブション氏を招き、服部栄養専門学校の主催で真空調理講習会が開催されました。
これにより、日本の多くの料理人・調理師に真空調理法が認知されました。
このとき、すでに長野のホテルで独自に真空調理法を編み出し、実践に取り入れていた谷孝之氏もこの講習会に参加され、自身の手法が間違いでないことに確信を得たと自著『真空調理の全技法』に記されています。
そしてこの講習会に先立ち、フランスでブラリュ方式の知見を深めたのが、現在も料理家として活動されている脇雅世氏です。
黎明期を知る谷孝之氏・脇雅世氏のお二方は、真空調理に関する著書や論文も多く、まさに日本の真空調理の第一人者といえるでしょう。
また、真空調理で必ずと言っていいほどつまづくポイントが、野菜の軟化だとおもいます。
ここを深堀りすると、おそらくは調理科学の第一人者・香西みどり博士の研究にたどり着くでしょう。
調理科学のバイブル的な書籍『マギー・キッチンサイエンス』の監訳も務められた方であり、内閣府食品安全委員会のメンバーとしても長きに渡りご活躍されています。
香西みどり博士の論文もすばらしく、低温調理・真空調理の知見を深めるために非常に役立つものです。
低温調理で気をつけることは?
低温調理に限らず、料理を作る上で大切なのは何よりも食品衛生です。
一般的な衛生知識はもちろん必須であり、低温調理・真空調理ならではのポイントも多々あります。
誰の健康も損なうことなく、安心して低温調理・真空調理を楽しむためには、知っておかなくてはならない知識です。
関連記事:4.安心して低温調理を楽しむために必要なこと
まとめ:低温調理・真空調理を楽しもう
晴レの日、褻の日という言葉があります。
低温調理器を手に入れたその日から、やわらかくてジューシーなミディアムステーキを楽しむことができます。
また、低温調理として紹介されるメニューは、宴席のローストビーフや色彩にぎやかなサラダチキンなど、まさに晴レの日の食卓にふさわしいものがずらりと並びます。
一方、施設や病院の給食で行われる真空調理は、何気ない日常の献立です。
肉じゃがや小松菜の煮びたしなど、驚くこともない褻の日の食卓に欠かせない料理たち。
ずいぶんイメージの違う低温調理と真空調理ですが、このふたつは同じ調理方法で進められています。
とは言え、真空調理を体系的に学べる書籍は少なく、低温調理のレシピ本には厨房でのリアルな問題は描かれていません。
- もっと身近なメニューもできること
- 保存性や利便性などのメリットもあること
- 料理の基礎、調理科学に基づいていること
うまく活用すれば、3~5日後のおかずを作りおきや、何種類もの料理を同時に提供することも可能になります。
食材を無駄なく使うことで食費の節約にもなるため、家庭に取り入れない手はありません。
調理家電が進化した今、シンクウキッチンを通じ、もっと身近な低温調理・真空調理を広めていければと思います。


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